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受け継がれてきた野崎町の味「野崎寿司」を次の世代に。
長崎県北地域のおもてなし料理として伝えられる押し寿司は、具材や作り方が地域によって少しずつ異なります。もろぶたに酢飯を広げ、煮付けた根菜などの具材を散らし、さらに上から酢飯を重ねたものを5cm角ほどの大きさに切った「大村寿司」や「もろぶた寿司」。寿司の側面から挟み込んだ具材が見えないように、1つずつ型に入れて作る「平戸寿司」など、県北地域の中でも地域や作り手によってそれぞれのこだわりが見える郷土料理です。
俵ヶ浦半島の野崎町に伝わる「野崎寿司」も他の地域とは異なる逸品。新鮮な魚のそぼろや根菜などを使った具材と、甘酸っぱい濃厚な酢飯が絶妙なバランスで、これまで販売していた展海峰でのウォーキングイベントでも真っ先に売り切れるほどの人気商品でした。

扇型が特徴的な野崎寿司。
しかし、調理には大変な手間と時間がかかるため、なかなか若い世代に引き継がれていないのが現状です。その負担の大きさから、野崎町の皆さんによるウォーキングイベントでの販売も今年から休止となってしまいました。
秋のウォーキングイベント「展海峰コスモスウォーク」を明日に控えるこの日、野崎町公民館からコトコトと煮込む音が聞こえていました。
俵ヶ浦町在住、チーム俵トレイル部部長の山口昭正さん一家が調理をしています。隣で見守りながら教えているのは、山口さんのおばさんにあたる中里ノブエさん。野崎町に嫁いだ中里さんは、町内の皆さんと一緒に野崎寿司を作られてきました。

野崎寿司の調理を教える中里さん(右)と山口さん親子(左から1番目・2番目)。
山口昭正さんは、
「ウォーキングイベントの企画をしていくなかで、ウォーキングの目玉だった野崎寿司がなくなるのはもったいないな、と。幸い、近くにノブエおばさんがいて作り方は教えてもらえるので、今回のコスモスウォークに向けて調理、販売をやってみようと思って。」
とのこと。
今回の野崎寿司の調理は、九十九島の海に出て、アジを釣ってくるところから始まりました。
山口さん自身が釣ってきたアジの魚を一度焼き、丁寧にほぐし、さらに炒ってそぼろにします。そして、茹で干し大根や干し椎茸を細かく刻み、ごぼうをささがきにしてコトコトとじっくり煮込みます。
実際に野崎寿司の具材を作ってみると、魚の下処理、根菜などの刻み方、ひとつひとつの手間に、普段のお料理にも約立つコツや秘伝が満載。料理の基本を伝えていく役目があったことが分かります。ハレの日に大勢でいただく野崎寿司は、その美味しさだけでなく、知恵やおもてなしの心もたっぷり詰まった郷土のごちそうです。
今回、野崎寿司の作り方を教える中里ノブエさんは、
「俵ヶ浦町でも押し寿司を作っていましたが、味付けは違いますね。私が野崎町に嫁いでからは野崎町の作り方を習いましたけど、詳しいレシピは教わってないとですよ。野崎の人たちと一緒に作って、見よう見まねで覚えていったとです。今でも詳しいレシピは分からんですよ。」
と笑いながらも、山口さんたちに手取り足取り教えてくれます。
「最近は集まって野崎寿司を作ることもなくなりましたね。手間もかかりますし、若い人も忙しかったり、自分の家でも作ることもほとんどなかとですよ。」
と語る中里さん。今回の山口さんからのお願いに、レシピは分からないと言いつつも、嬉しそうに教えている姿がありました。

詳しいレシピがないため、味付けの様子を見せてもらい、味見をしながら作り方を学びます。
この日は押し寿司に入れる具材を仕上げて終了。コスモスウォークが開催される明日の早朝からご飯を炊いて酢飯を作り、押し寿司を仕上げていきます。
翌朝、野崎町公民館には前日よりも多くの方が集まっていました。押し寿司を準備していることが伝わり、地元の料理名人・森宗カツ子さんをはじめ、町内の方々が手伝いに来てくれました。

調理を手伝ってくれた野崎町の皆さん。

野崎寿司はまず酢飯の中に具材を入れこみ、丸く成型。

野崎町の料理名人、森宗カツ子さん。手際よく、押し寿司を作り上げます。
手際よく、どんどん完成していく押し寿司。野崎寿司は扇の形をしているのが特徴ですが、今回は通常の押し寿司として、四角の型で作っています。そして、山椒の葉っぱなどを飾りつけして、「野崎仕込みの押し寿司」が完成。
コスモスウォークの会場、展海峰にて販売しました。

手作りのラベルと、おもてなし料理として水引を使ってパッケージ。

これまでウォーキングイベントで使用されていた野崎寿司の看板を今回も出してくれました。
山口さんは、
「野崎寿司を残したい、作ってみたいと思ったものの、予想以上に手間もかかり大変でしたね。でも、それも含めて色々と経験でき、気づきがあったので良かったです。野崎寿司を知ってもらうには、作るだけじゃなくて、売っていくための工夫もせんといかんと思います。野崎寿司を残していくために、どうやったらやっていけるか考えんといかんですね。」
と、振り返ります。
野崎寿司に限らず、各地ならではの郷土料理は、少子高齢化や食生活の変化により継承していくことが難しくなっている状況があります。
野崎寿司は、野崎町だけでなく俵ヶ浦半島の各町の皆さんに愛される逸品。この文化や魅力を守っていくために、試行錯誤は続きます。
手間ひまかけて、具がたっぷり詰まった野崎寿司。他にはない美味しさです。
今後も販売する際はお知らせしますので、ぜひご賞味ください。
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