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「一般社団法人REPORT SASEBO」代表・中尾大樹さんが、「まちの灯台 阿久根」代表(鹿児島県阿久根市)・石川秀和さんに聞く、「地域の仲間を巻き込む方法」
佐世保市俵ヶ浦半島の未来に向けて、住民参加のワークショップなどを経て2017年3月につくられた「半島未来計画」。今回インタビュアーとなる中尾大樹さんは、佐世保市役所の当時の担当者として、地域住民との関係性を築きながら、この計画づくりに尽力した人物です。その中尾さんがインタビューするのは、京都で古ビルのリノベーション事業などを手がける会社を経営した後、2015年に鹿児島県阿久根市に移住し、現在は観光連盟の機能を引き継ぐ形で2018年に新設された株式会社「まちの灯台阿久根」の代表を務めている石川秀和さんです。役所の担当者としての役目を終えた後も、一般社団法人REPORT SASEBO(以下、リポート)を立ち上げ、俵ヶ浦半島に継続的に関わっている中尾さんが、石川さんに聞きたいこととは?
Q. 佐世保にある俵ヶ浦半島は、自然豊かな九十九島の海と、米海軍や海上自衛隊が基地を置く佐世保港軍港としての海に挟まれ、佐世保のアイデンティティが現れているとても面白いエリアです。僕は市役所の職員として、半島の未来計画づくりに関わってきましたが、担当を外れたいまは、新たに立ち上げた法人、リポートのメンバーとともに、俵ヶ浦半島と佐世保の市街地という2つのエリアを活動のフィールドに据え、地域の魅力を発信していくような活動をしていきたいと考えています。活動を進めていくにあたって、仲間の巻き込み方や活動資金のつくり方という部分が課題になっているので、今日はその辺のお話を伺えればと思っています。まずは石川さんの阿久根での活動についてお聞かせ頂けますか?
石川:僕は現在、阿久根市の観光連盟の役割も兼ねたまちづくり会社「まちの灯台阿久根」の代表を務めています。一方、阿久根に来るまでは京都でリノベーションの仕事をしていたこともあり、リノベーションや建築を軸にした場づくりの仕事を依頼されることもあります。具体的な例を出すと、まちづくり会社では阿久根の道の駅の改修・運営などを行い、個人の仕事として、阿久根の水産加工会社が運営する施設「イワシビル」のプロデュースなどを手がけています。

インタビューはイワシビルの中にあるラウンジスペースで行いました。左から石川秀和さん、中尾大樹さん。
Q. 行政が建物を新しくつくったものの、蓋を開けてみたらあまり有効に活用されないというのはよく聞く話ですが、石川さんはリノベーションや場づくりの仕事で大切にしていることを教えてください。
石川:リノベーションで最も大切なのは、何のためにその場所が必要なのか、どんなことを達成したいのかということを、そこに関わる人たちみんなが共有することなんですね。例えば、先ほどご紹介したイワシビルは、阿久根で三代続く干物屋さんが新しくつくった施設なのですが、その背景には、それまであまり若い人たちに働きたいと思っていなかった干物屋を、プライドを持って働けるような仕事に変えたいという3代目の熱い思いがあり、それを叶える手段として1階にカフェとお土産屋、2階に工場、3階にホステルが入った”職場”をつくりました。僕はリノベーションというものをコミュニケーションツールのひとつだと考えているのですが、ポイントを間違えてしまうと、伝えたいことが届けたい相手に届かないということが起きてしまうと感じています。

古ビルを改装した「イワシビル」。

1階のカフェとお土産屋さん。

3階にあるホステルのラウンジスペース。
Q. コミュニケーションをする相手もかつていた京都と、いまの阿久根ではだいぶ異なるような気もします。
石川:京都の時は、クライアントやパートナーにクリエイティブ業界の人たちが多かったですが、阿久根では1次、2次産業の人たちとの関わりが多く、土地の価値をつくっている人、地域資源を抱えている人の対象が違うということは感じます。また、京都には観光関連のメディアもたくさんありましたが、阿久根にはそういうメディアはほとんどありません。そうした中で建築の仕事などでは、年数を重ねていくほど価値が高まるもの、芯の強いものをつくるということをこれまで以上に意識するようになりました。それによって東京の雑誌などがわざわざ阿久根まで取材に来てくれたりということが実際に起きていて、自分の仕事の説得力や信頼度が増すことで、地域に応援してくれる人が増えるという側面は少なからずありますね。

石川さんが京都でリノベーションを手がけたクリエイター向けの複合施設「つくるビル」。築50年、4F建てのビルにアトリエ・カフェ・ショップ・シェアスペース・オフィスなどが入る。
Q. まちの灯台阿久根では、地元の若い人たちが「ただいま」と帰ってきたくなるまちづくりというミッションを掲げていますが、具体的な未来の目標なども設定しているのですか?
石川:まず前提として、この会社を新たに立ち上げるにあたって、地域の企業などに株主になってもらうということにこだわったんですね。それによって覚悟を持って関わってくれる人を増やしたいという思いがあったし、僕自身は、自分のことをいつでもクビにしてもらっていいというスタンスで仕事をしています。いま自分が持っているリソースが10年後に通用するとも思っていないし、その頃にはいまと別の課題も出てきている可能性があるから、その時は誰かがこの立場を引き継ぐという前提で、代表をやらせてほしいという話は関わってくれているみなさんにしています。そして、ご質問の内容に戻ると、僕が代表を務めている間に、未来のまちを担う30代前後の若いキープレイヤーを10人くらいはつくりたいということが具体的な目標です。
Q.そこから先はまた次の世代が担っていくという考え方ですか?
石川:無責任かもしれませんが、そう思っています。若い人たちが地元に帰ってくるといっても、急にUターン者が増えたり、地元での就職率が極端に上がるというのはあまり現実的ではないと思うんですね。その中で、いま会社に出資してくれている40~50代の人たちとも共有しているのは、自分たちが中継ぎの世代となり、希望の光をつくっていくために投資をしていくという意識です。現状では、阿久根で新しいアクションが起こり、雇用が増えたというようなモデルケースがまだ少ないので、僕らの役割は、いまの阿久根にない業種をつくって雇用を生んだり、限られた資源の中で新しい商品を開発していくことなどを通して、お手本を示していくことだと思っています。

「まちの灯台阿久根」がリニューアルを手がけた道の駅では、若者の雇用を意識したドーナツ屋さんも。
Q. こうした活動では地域のさまざまな人たちを巻き込んでいくことが必要だと思いますが、そうした部分で意識していることがあれば教えてください。
石川:ソーシャルデザインなどの文脈では、「コミュニティ」というものがポジティブに語られることが多いですが、これまで仕事にしてきた経験から、町おこしという観点においてコミュニティというのはむしろマイナス要因になりやすいと感じています。地域のコミュニティというのは、一緒にいて心地良い「同一者集団」で形成されていることがほとんどで、地域の人たちは自分が所属しているコミュニティをセーフティネットにしています。それは当たり前と言えば当たり前のことなのですが、まちづくりという視点で見ると、こうしたコミュニティは閉鎖性を生みやすいとも言える。僕らのようなまちづくり会社は、世代、性別、信条などの違いを乗り越えて、普段であれば会わない人たちが重なり合う機会をデザインしないといけないと思っています。それを僕はコモンズデザインという言葉でとらえていますが、これを会社のメンバー全員に強いると心が壊れてしまう。だから、組織の中にひとりそういうことを担える人がいれば良いと考えています。

石川さんが発起人である「阿久根と鎌倉」プロジェクト。阿久根の高校生や先生、仲買人、行政職員などさまざまなメンバーが毎年鎌倉に短期滞在し、鮮魚販売や食堂営業を行うことで地域の中で連帯感が生まれている。
Q. これから自分たち「リポート」が活動をしていく上で、地域の仲間を巻き込んでいくことと同時に、活動資金をつくっていくことも大きな課題になっています。資金ゼロからのスタートなので、まずは稼がなければいけないという意識が働き、なかなかその先に進めないという状況なんです。
石川:スモールスタートで良いと思いますし、いまいるメンバーで先に繋がりそうなことをまずは始めていかないといけないですよね。そして、そのためには、自分たちの究極の目的とは何か? ということを改めてメンバーで議論した上で、それを実現するためのミッションとは何か? そのミッションを実行するためにはどんなプロジェクトをつくると良いのか? ということを洗い出した方が良いですよね。その中から、現状の人や資金、ネットワークなどを踏まえて、何から始めるのかということをメンバー全員で決めていくことが大切なのだと思います。自分自身、いまのまちづくり会社にしても、リノベーションの会社にしても、そのようにスタートしています。
Q. 実は一般社団法人と同じ「RE PORT」という名前のカフェを、僕の妻が主体となって運営していて、今年で4年目を迎えました。今後はこの場所もうまく活用しながら、俵ヶ浦半島というフィールドも視野に入れて、新しいことに取り組んでいきたいと考えています。

中尾さんが中心となって運営しているカフェ「RE PORT」。
石川:僕が京都でリノベーションの会社を経営していた時は、古ビルのリノベーションやコンサル事業でお金を稼ぎ、その資金でクリエイター支援という目的のもと、アートギャラリーの運営などをしていたんですね。事業で得た利益を、お金になりにくいものに投資するという企業としては少しおかしな構造だったのですが(笑)、リポートに関しても、市街地での飲食店やゲストハウス事業など稼ぎが出せる事業と、自分たちがやりたいこと、応援したいものに投資していくような事業を分けて考えるというのはアリなのかもしれないですね。特に資金的な準備がまだ整っていない現時点で、いきなり俵ヶ浦半島に拠点などをつくることはリスキーだと思うので、まずは市街地の事業でしっかり稼げるような形をつくっていけると良い気がします。
Q. 大半が市街化調整区域に指定されている俵ヶ浦半島は、新しい事業を起こしにくいという現状もあります。
石川:それだけ特徴が異なる2つのエリアが同じ市内にあるというのはある意味とても面白いことですよね。だからこそ、お金に対する考え方も完全に変えてしまい、僕の京都時代の会社ではないですが、営利/非営利を明確に分けてしまうくらいでもいいかもしれない。例えば、俵ヶ浦半島の生産者などを巻き込んで、特産品を販売したり、イベントを開催するような飲食店兼ゲストハウスのようなものを市街地に展開してお金を稼ぎながら、半島を応援するようなことができると面白そうですし、半島での取り組みについては、うまく助成金なども活用していくというのもひとつの手だと思います。
Q. 僕は市役所の職員として働きながら、一般社団法人の代表も務めていますが、石川さんももともとは地域おこし協力隊として阿久根に入り、役所で働かれていますよね。現在の行政との関係性はいかがですか?
石川:阿久根は人口2万人程度の小さな自治体ということもあって行政との距離感は近いですし、役場の若い職員などにはこちらから積極的に声をかけて色々巻き込もうとしていて、例えば、地域おこし協力隊の研修制度を活かした呼びかけやアテンドなどもしています。役場としても、若い職員のモチベーションを高めていくような仕組みづくりをしたいようなのですが、現状ではまだ上手くできていないので、自分としてもお手伝いをしていきたい。先ほどの同一者集団の話と同じで、役場には役場のコミュニティというものが出来上がっているからこそ、彼らが外の世界ともつながれるようなコーディネートをして、インプットの機会を増やしていくということは大切だと思っています。

石川さんは、映画撮影の誘致活動なども積極的に行っている。
Q. コモンズデザインという話もありましたが、民間から行政まであらゆるところに種をまき、関係性をつくっているのですね。
石川:京都の会社の時から僕は、質の高い偶然性を生むために、質の高い計画を練るということを徹底してきました。場づくりの仕事をしていると、ある時突然、自分たちが想定もしていなかったハッピーな出来事が連続的に起こることがあるんですね。そういう体験をしてきたからこそ、いまの仕事をやめられなくなってしまったところがあるんです。そして、そういうことが起こる背景には、徹底した仕込みと積み重ねというものが必ずあって、だからこそどんなに小さなプロジェクトでも妥協をせずに準備をした上で、まちに落とし込んでいくということを大切にしています。その積み重ねによってまちの空気が高まり、質の高い偶然が生まれてくると思っています。そういう意味で自分の仕事は、農業における土づくりに似ているところがあると感じていて、本当に良い野菜を収穫するためにリサーチを重ねたり、コミュニティを醸成したり、地域資源を探したりということを一つひとつ積み重ねていくことを常に意識しています。

石川さんは阿久根で様々なイベントを手掛けている。写真は保育園で開催したワークショップの様子。
Q. これまでは飲食店というものが軸になっていたこともあり、活動に巻き込んでいく対象として視界に入っていたのは、お客さんと同じエリアの事業者くらいだった気がします。でも、今日石川さんのお話を伺って、より広い視野で地域にいるプレイヤーたちを見出し、その隠れた課題を掘り下げて、一緒にその解決に取り組んでいくことが大切なのだと感じました。
石川:まちという舞台の上には目立つプレイヤーからそうではない人までがいて、それぞれの活動や関係を尊重しながら、役割を考えていくことが大事だと思うんです。これまで僕も、自分たちの強み、周りにいる人たちや地域の資源などをしっかり把握した上で、いまどんな役割が足りていないのかということを考え、行動するということを続けてきました。そういう意味でも先ほど話したように、リポートのメンバーで話し合ってそれぞれ夢を書き出し、そこに向けて何をしていくべきかを考えていくことが大切ですし、しっかりした計画と熱意さえあれば、人やお金も集まってくるのではないかと思います。
「一般社団法人REPORT SASEBO中尾大樹さんの阿久根(鹿児島県)訪問記」はこちら
★プロフィール
インタビューされた人
石川秀和 「株式会社まちの灯台阿久根」代表
千葉県生まれ。京都の家具製作工房や不動産会社を経て2007年に建築デザイン事務所 「sahou design」、2008年に株式会社HLCを設立。
2015年に京都市から阿久根市へ地域おこし協力隊として移住。専門領域はリノベーション、コミュニティデザイン。協力隊任期中は「イワシビル」「阿久根と鎌倉」「PARK-PFI」など、地域資源を活用した地域おこし事業を企画。協力隊退任後、阿久根市観光連盟事務局長に就任。2019年4月に「お帰りなさいをつくる」をコンセプトに同観光連盟を民営化。自主財源運営と若者が働きたくなる雇用作りを目指し日々奮闘中。
インタビューした人
中尾大樹 佐世保市役所(企画部 文化振興課)主任主事/
一般社団法人REPORT SASEBO代表理事
大学卒業後、Uターン入庁した市役所で出会った仲間と佐世保を再発見する自主研究活動「RE PORT」をスタート。イベント企画、運営等に携わった後、リアルな場づくりの必要性を感じ、2015年、妻と同名のカフェを立ち上げる。
その後も公私それぞれの立場を行き来しつつ、様々なまちづくり活動に参画。
2019年これまでの活動を統合、業種を越えた新たな仲間を迎え、一般社団法人REPORT SASEBOを設立し、ホテルや観光プログラム開発など目下新プロジェクトの準備中。夢は佐世保市内での海山街の3拠点居住。
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